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Channel: 芸術家く〜まん843
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2013年7月7日放送美の壺「夏の着物」

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美の壺「夏の着物」

暑い夏の日、すっきりした和服姿は、見るからに涼しげです。
夏におしゃれを楽しむための知恵を、日本人は千数百年にわたって磨きあげてきました。

夏限定の柄も豊富です。
四季に恵まれた国ならではの繊細な美意識が、着物に宿っています。

着物スタイリストの草分けとして活躍してきた大久保信子(おおくぼのぶこ)さん。
大久保 「薄い布の中に、細い体が泳いでる。その雰囲気がとてもいいんじゃないんですか。粋とか色気とか、いわゆる色気も上品な色気、それから可愛(かわい)い色気、いろいろ色気があるし、そういうのが出るんじゃないんですか。」

壱のツボ 透けて軽やか!紗の涼感

暑さの極まる7月・8月に活躍する生地があります。
「うすもの」とよばれ、蝉(せみ)の羽根のように軽く透き通った生地です。
中でも代表的なものが「紗(しゃ)」と呼ばれる絹の織物。
向こうが透けて見えるのは、糸と糸の間に隙間があるから。

人間国宝の染織家、土屋順紀(つちやよしのり)さん。
土屋さんの織物は、隙間が大きい部分と小さい部分を織り分けて模様を作り出す「紋紗(もんしゃ)」という高度な技法。
土屋 「やはりこれだけ蒸し暑い夏になりますから、なるべく涼しげなものを着たいということが、また見た目も、涼しげな感じをお互いに見せ合うというのが、日本人じゃなかったかなあと思う。」

1つ目のツボは、
「透けて軽やか!紗の涼感」

手と足をフルに使って複雑な機(はた)を動かし、着物一着分の紗を織るのに一月(ひとつき)。
途方もない集中力が生む、精緻な織り目。
涼やかさを求める思いと共に受け継がれてきた技です。

色も涼やかさの要。
草木染めのやわらかな発色が、透明感を引き立てます。

もうひとつ大切なのが、独特のハリのある風合い。
伝統的な紗に使われるのは、生糸本来のハリが残る精錬していない糸。
しかもそれを強く撚り合わせたものを使います。
数多くの凹凸ができ、肌に触れる部分が小さいため、さらりとした感触になります。

シャリ感がいかにも涼しげな土屋さんの作品。
陽射しにきらめく水面(みなも)を表現しました。
透明感、色彩、ハリ。
涼しさを演出する知恵がつまっています。

弐のツボ 柄で季節を先取り

つづいて、柄の選び方です。
夏の着物には、情緒あふれる夏の風物があしらわれてきました。
たとえば水の流れや、水辺に生える草、トンボなど。
いかにも涼感を誘う柄です。
しかし、涼しげなら何でもいいわけではありません。

東京・神楽坂の芸者として、40年あまりのキャリアをもつまゆみさんに着物で季節感を表すときの秘訣(ひけつ)を教えていただきました。
まゆみ 「トンボがまだ飛んでないくらいからもうそろそろ、とんぼ締めましょうかって感じかもしれないですね。やっぱりちょっと季節より先取りっていう感じで締めます。7月だとまだ桔梗(ききょう)も女郎花(おみなえし)もまだちょっと早いくらいですけど、やっぱり少し早めに締めていこうっていう感じになりますね。」

2つ目のツボは、
「柄で季節を先取り」

この日のまゆみさんの帯。
アオサギの柄が織り出されています。
アオサギは、俳句の季語では、夏の盛りのもの。
自然の変化よりも一歩早く、季節の移り変わりを楽しもうという繊細な感覚です。

幾何学的な模様にも、季節がひそんでいます。
この柄は、植物の麻の文様です。
夏のあいだ成長しつづける麻。
ふたたび俳句を手がかりにすると、収穫の時期である晩夏を象徴します。
夏も早い時期に身につければ、季節の先取りでおしゃれなのです。

参のツボ 小物で太陽を味方にする

コーディネーションを仕上げる小物。
夏なら、日傘もそのひとつです。
本来は陽射しをよけるための実用品ですが、和服姿を一段と美しく見せてくれます。

もうひとつ夏に欠かせないのが、冷たい輝きを放つガラスの小物。
このかんざし、持ち主は江戸時代の豊かな商家の女性だったと考えられます。
ガラスは当時、貴重なものでした。

こちらは、中国からもたらされたとみられるさらに貴重なガラス。
神秘的な青。そこから透けて見える唐草模様の金。
光を浴びて、一層ひんやりと輝きます。

3つ目のツボは、
「小物で太陽を味方にする」

帯留めは、体の中心でひときわ目を引くアクセント。
これは雪の結晶をモチーフにしたガラスの帯留めです。
夏の盛りにあえて真冬の風物を取り入れる。
涼しさを感じさせるために古くから使われてきたテクニックです。

新進ガラス作家の小川郁子(おがわいくこ)さんは、江戸時代からの技を帯留めに生かしています。
小川 「宝石ほどかしこまっていず、身近な存在なんですけれども、手を加えることによっていろんな風に変わるというのが、ガラスの面白さだと思う。帯留めをつけることによって着物を着るのが楽しくなって、うきうきした気持ちになってくれたらいいなあと思いますね。」

雪の結晶を思わせるこの形は、小川さん独自のものです。
表面のカットと細かな切り込みが光を屈折させ、煌(きら)びやかさを生んでいます。

かつて女性たちの夏の和服姿を彩った名品です。
これは昭和初期のもの。
風にそよぐ柳の木を精緻な金細工で作り、ガラスの中に閉じ込めました。

江戸後期に作られた帯留め。
輪をねじっただけの形に複雑な光が宿る、粋なデザインです。
光と戯れるアクセサリー。
降り注ぐ太陽のもとで生きる、小物づかいです。

出演者

司会
草刈正雄

語り
古野晶子




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