◆壱のツボ 時空を超える風景を楽しむ
◆弐のツボ みやこに馴染(なじ)む和の意匠
◆参のツボ 洋館ではんなり暮らす
和の情緒あふれる京都は実はレトロな洋館の宝庫。明治、大正、昭和に建てられたさまざまな様式の建物が残っています。寺院や町家を撮り続けてきた写真家の神崎順一さん。洋館も京都の街の魅力だといいます。
神崎「京都の洋館は観光資源としてこれから注目されると思う。ただ京都の人もあまり知らないんです。」
今日は地元京都でも知られてこなかった洋館の魅力をご紹介します。
それではさっそく洋館散歩に出かけましょう。まずは日暮れどきの四条大橋から。京の夏の風物詩・納涼床(のうりょうゆか)でにぎわう鴨川沿いに洋館を見つけました。今は中国料理店ですがもとは西洋レストラン。大正15年に建てられました。玄関では食材を題材にした豪華な装飾が客をお迎えします。江戸時代にはやった夕涼みの景色から大正モダン建築へ。
次は足利義満ゆかりの禅寺相国寺(しょうこくじ)。厳かな境内から、門をくぐると・・・赤レンガが鮮やかな同志社大学のキャンパスが広がります。
京都の建築を研究してきた京都工芸繊維大学 教授の石田潤一郎さん。
石田「京都は大きな自然災害や戦災を受けずに過ごすことが出来ました。江戸時代以降、明治、大正、昭和の建物が同じ場所にモザイクのように建ち並び、京都という街独特の個性を与えていると思います。」
続いては、西本願寺の門前町。風情ある町並みの奥に青いドームを載せた不思議な洋館が見えてきました。
西本願寺の施設、伝道院です。明治時代、仏教のイメージをより時代に即したものに変えてゆこうと当時最先端のデザインが採用されました。
石田「明治維新後、東京遷都により京都は衰退していく傾向にあり、街全体が近代化の試みに取り組んだのです。」
時代を切り開いてきた京都の歴史を見ることができます。
東山のふもとに広がる岡崎公園に、一風変わった洋館があります。昭和8年に建てられた京都市美術館です。鉄筋コンクリート造りの近代的な建物ですが、屋根は和風の銅葺き(どうぶき)屋根。「和」を感じさせる装飾が随所に見られます。
京都市文化財保護課の石川祐一さん。和風の装飾で飾ったのには理由があると言います。
石川「昭和5年の都市計画法で岡崎公園が風致地区に指定され歴史的な環境に配慮するという意図が強く働いたのではないかと考えられます。」
古都の景観に合わせる工夫がほどこされたのです。そして京都ならではの洋館が生まれました。
お茶屋が軒を並べる中に建つ祇園の弥栄(やさか)会館です。カーブが美しい唐破風(からはふ)などで鉄筋造りの箱形を感じさせない華麗な外観に仕上げてあります。
祇園の老舗お茶屋 八代目の太田紀美さん。学生時代に会館内のホールで芝居や映画に親しみました。
太田「こんなハイカラな劇場はほかには無かったんではないでしょうか。でもここの町並みは全部瓦を敷いた屋根ですから、違和感がないようにしたんだと思います。」
伝統とモダンの両立。魅力的であり続けるための古都の知恵がうかがえます。
そして清水寺の門前に構える旧松風嘉定邸。バルコニーやサンルームを設けたしゃれた洋館ですが屋根は瓦葺きで寺院で見かける鴟尾(しび)が飾られています。この洋館一番の見どころは4階にあたる展望台。眼下に都の絶景が広がる展望台ですが清水寺は仰ぎ見るように作られています。
30年前に建物を譲り受けた上田両四郎さん。
上田「清水寺は超してはいけないという思いがあったんだと思う。やはり清水さんあってのわれわれのお商売ですし。」
慎みもまた古都の洋館の味わいです。
同志社を創立した新島襄と妻・八重が住んでいた新島旧邸。二人はここで当時最先端の洋風の生活を送りました。こちらはキッチン。井戸を室内に取り入れ流しとかまどを並べた配置は現代の住宅に通ずる発想です。一方で洋間の一部が茶室に改造されています。八重が趣味の茶の湯のためにしつらえました。
同志社社史資料センター 布施智子さん。
布施「すごく柔軟性のある女性だったのでは。洋風の生活も実践しながら和風の生活を持ち続けていた。」
和も洋もすべてが八重の都ぐらしです。
大正15年に豪商の家として建てられた川﨑家住宅。町家から生えてきたかのように洋館が飛び出しています。内部は西洋風に客を接待するための応接間。京都一流の商家として格調高い空間で客をもてなしました。さらにこの洋館には京都ならではの特別なしつらいが。屋上が、祇園祭のときに家の前を通る山鉾(やまほこ)を見るための「鉾見台(ほこみだい)」になっているのです。
ご主人の川﨑榮一郎さんのお話から、京都人の究極のおもてなしを感じます。
川﨑「7月17日の巡行の日だけしか開けないという決まりになってます。お客さんに山鉾の巡行を見て楽しんでもらうためだけの場所です。」
年に一度祇園祭を見るためだけにしつらえた屋上なのです。あっぱれなり、京の洋館!
◆出演者
司会
草刈正雄
語り
古野晶子