以前うちの教室に、一万人に一人ともいえる逸材がいましてね。
本当に、格闘技をやるために生まれてきたような子で、出る大会出る大会、全部優勝していきました。
そして小学生の時、柔道に転向し、それも日本一になってもう一度レスリングに戻ってきたんですよ。
ところが彼は、俺は日本一だという偉そうな顔をしていて、態度が悪いものでね。
あれがもうちょっと素直だったら、五輪も出られるんだろうなと思うんですが。
そういう選手は他にもいて、教えたことはすぐ覚えるし、教えなくても相手がやっているのを上手に真似る。
ただその子が本当に強くなるかというと、
やっぱり最後は素直でなきゃダメですね、人間。
「はい」という返事や「すみません」「ありがとう」という言葉をちゃんと知っている人間でないと。
俺は強いんだ、なんて偉そうにしている人間はもう人が相手にしない。
小さい頃からそういうことをしっかり叩き込んでおかないと、大きくなってから必ず損をします。
私は(娘の)沙保里によくこんな話をしてきました。
「もしおまえが途中で負けてしまったら、
おまえに負けた子がまた泣いてしまうぞ。
だからおまえに負けた子の分まで勝たなきゃいけない」
と。
一方、女房は二〇〇八年に連勝記録が百十九で途切れた時、
「いままでおまえが勝たせてもらったその裏で、他の子は皆泣いていたんだよ。一度負けたくらいでクヨクヨするな」
と言いました。
連勝の記録ももちろん大事ですが、やっぱり人間、負ける悔しさというのを覚えていってこそ、本当の成長へと繋がるのだと思います。
一方、女房は二〇〇八年に連勝記録が百十九で途切れた時、
「いままでおまえが勝たせてもらったその裏で、他の子は皆泣いていたんだよ。一度負けたくらいでクヨクヨするな」
と言いました。
連勝の記録ももちろん大事ですが、やっぱり人間、負ける悔しさというのを覚えていってこそ、本当の成長へと繋がるのだと思います。
『致知』2013年4月号より