
<小津と東京>
戦前の『東京の合唱』や『東京の宿』から戦後の『東京物語』や『東京暮色』。小津作品には「東京」が入った題名が多い。実際、大半の作品は東京を舞台にしている。
故郷である東京への深い愛着、東京の変貌への強い関心が見てとれる。『風の中の牝鶏』の荒川放水路、『東京物語』の放水路と東武電車の堀切駅、『お早よう』の六郷土手などには東京の細部への目くばりが感じられる。
他方で、変わりゆく東京へ違和感を抱いたことも見てとれる。『麥秋』の原節子は秋田へと去るし、『東京物語』の両親は尾道へと帰ってゆく。『早春』の夫婦は岡山県の三石へ転換する。東京を愛しながら、他方で東京を離れる者たちもいる。小津はその両極を揺れ動いている。
―――川本三郎(評論家)
【小津安二郎・略歴】
1903(明治36)年12月12日、東京深川に生まれる。三重県立宇治山田中学を卒業し、'23年、松竹蒲田撮影所に撮影部助手として入社。1年の兵役を経て、大久保忠素の助監督となる。'27年、野田高梧の脚本による時代劇『懺悔の刃』で監督デビュー。'32年の『生れてはみたけれど』から『出來ごころ』『浮草物語』で3年連続のキネマ旬報ベストワンを獲得し、最初の絶頂期を迎える。'37年応召し'39年まで中国戦線を転戦。4度目のベストワンを得た『戸田家の兄妹』をはさみ、'43から軍報道部映画班員としてシンガポールに滞在し、'46年帰国。戦後3作目の『晩春』で5度目のベストワンを得、以来、日本映画界を代表する巨匠として傑作を連打した。主要な国際映画祭への出品はなされず、国際的な認知は黒澤明、溝口健二に遅れたが、'57年にロンドンのナショナル・フィルム・シアターで上映された『東京物語』が絶賛を博し、年間最優秀映画に選出されたことを契機に、世界的な評価を高めていった。'63年12月12日、60歳の誕生日に死去。
【上映リスト】
1. 学生ロマンス 若き日
S4('29)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間43分
■原作・脚本:伏見晁■潤色:小津安二郎■撮影:茂原英雄■舞台設計:脇田世根一■出演:結城一郎、斎藤達雄、松井潤子、日守新一、飯田蝶子、笠智衆
現存する最初期の作品で、監督第8作目。スキー旅行に出かけた学生達の恋と友情を描いた青春明朗篇。新潟・赤倉でロケを敢行した。若き日の笠、斎藤ら名優が輪になって踊る「佐渡おけさ」は一見の価値あり。
2. 和製喧嘩友達(短縮版)
S4('29)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/サイレント/15分
■原作・脚本:野田高梧■撮影:茂原英雄■出演:渡辺篤、吉谷久雄、浪花友子、結城一郎
近年発見された作品で、短縮版ながら小津のアメリカ映画好みが縦横に感じられる相棒コメディ。仲良し二人組が、身寄りのない娘を巡って恋の鞘当てを展開する。殴り合いの喧嘩、トラックと機関車の並走など、胸が躍る。
12.「東京の女」と同時上映
3. 大学は出たけれど(短縮版)
S4('29)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/サイレント/12分
■原作:清水宏■脚本:荒牧芳郎■撮影:茂原英雄■出演:高田稔、田中絹代、鈴木歌子、飯田蝶子、大山健二
当時の不況を背景に、大学は出たけれど職に就けない青年(高田)が、田舎の母に嘘をついたことから巻き起こる騒動をコミカルに描く。田舎から押し掛ける許婚を、小津映画初出演の田中絹代がいじらしく演じている。
6.「落第はしたけれど」
と同時上映
4. 突貫小僧(短縮版)
S4('29)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/サイレント/14分
■原作:野津忠二■脚本:池田忠雄■撮影:野村昊■出演:青木富夫(突貫小僧)、斎藤達雄、坂本武
人さらいの男(斎藤)が、さらってきた子供の腕白ぶりに振り回されるドタバタ喜劇。もとは38分の短篇だが、現存するのは家庭用小型映画に再編集されたもの。まだ幼い青木富夫の達者な芸に目を見張る。
8.「淑女と髯」と同時上映
5. 朗かに歩め
S5('30)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間36分
■原作:清水宏■脚本:池田忠雄■撮影:茂原英雄■舞台設計:水谷浩■出演:高田稔、川崎弘子、吉谷久雄、伊達里子、毛利輝夫、鈴木歌子
タイピストの娘(川崎)に惚れた与太者(高田)が更生の道を歩む、都会的なボーイ・ミーツ・ガールもの。二人の運命的な恋や、共に堅気となった子分との絆がドラマティックに描かれる。当時の流行ファッションも多数登場。
6. 落第はしたけれど
S5('30)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間5分
■原作:小津安二郎■脚本:伏見晁■撮影:茂原英雄■舞台設計:脇田世根一■出演:斎藤達雄、田中絹代、月田一郎、笠智衆、二葉かほる、青木富夫(突貫小僧)
共に落第した仲間が、あの手この手のカンニングで卒業試験に挑む学生喜劇。生徒達の身ぶりや歩き方にパントマイムを取り入れた、独創的な動きがコミカルな洒落た一本。学ラン姿の若々しい笠智衆にもご注目。
3.「大学は出たけれど」
と同時上映
7. その夜の妻
S5('30)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間6分
■原作:オスカー・シスゴール『九時から九時まで』■脚本:野田高梧■撮影:茂原英雄■舞台設計:脇田世根一■出演:岡田時彦、八雲恵美子、山本冬郷、斎藤達雄
病気の娘のために強盗をはたらいた夫婦の部屋へ刑事が訪ねてきて…。深夜の密室で繰り広げられる息詰まるサスペンスは、光と影の対照がただならぬ緊張感を漲らせる。戦前の小津のモダニズムが堪能できる。
8. 淑女と髯
S6('31)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間15分
■原作・脚本:北村小松■ギャッグマン:ヂェームス槇■撮影:茂原英雄、栗林実■舞台設計:脇田世根一■出演:岡田時彦、川崎弘子、月田一郎、飯塚敏子、伊達里子、飯田蝶子
立派な髯を蓄えた剣道一筋のバンカラ学生が、タイプの異なる三人の娘に振り回されるはめに…。岡田茉莉子の父で、世紀の二枚目・岡田時彦が、デリカシーのない髯の大男を体当たりで演じたナンセンス・コメディ。
4.「突貫小僧」と同時上映
9. 東京の合唱(コーラス)
S6('31)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間31分
■原案・脚本:北村小松、野田高梧■撮影:茂原英朗(雄)■舞台設計:脇田世根一■出演:岡田時彦、八雲恵美子、斎藤達雄、飯田蝶子、坂本武、高峰秀子
同僚の不当解雇に抗議したため会社をクビになった岡島(岡田)は、学生時代の恩師が営む洋食店「カロリー軒」を手伝うことになるが…。サラリーマンの悲哀を描いた小市民映画の傑作。娘役の高峰秀子が可愛らしい。
10. 大人の見る繪本 生れてはみたけれど
S7('32)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間30分
■原作:ゼェームス槇■脚本:伏見晁、燻屋鯨兵衛■撮影:茂原英朗(雄)■美術:河野鷹思■出演:斎藤達雄、吉川満子、坂本武、菅原秀雄、突貫小僧、加藤清一
小津のサイレント期を代表する名作。郊外に引っ越したサラリーマン一家の二人の息子は、そこで父親の意外な姿を知り…。小津映画には欠かせない突貫小僧の名コメディアンぶりに脱帽の、ユーモア溢れる珠玉の感動篇。
11. 青春の夢いまいづこ
S7('32)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間25分
■原作・脚本:野田高梧■撮影:茂原英朗(雄)■出演:江川宇礼雄、田中絹代、斎藤達雄、大山健二、笠智衆、坂本武
気ままな学生生活を送っていた仲間が、ひょんなことから社長と社員の関係となり、友情に波風が立つ。就職難の世相を背景に描かれる、ほろ苦い青春ドラマ。『落第は~』に続き、学生達のマドンナ役に田中絹代。
12. 東京の女
S8('33)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/サイレント/47分
■原作:エルンスト・シュワルツ■脚本:野田高梧、池田忠雄■撮影:茂原英朗(雄)■美術:金須孝■出演:岡田嘉子、江川宇礼雄、田中絹代、奈良眞養
タイピストの姉と二人で暮らす弟は、ある日、姉の良からぬ噂を聞きつけ…。役者との駆け落ちやロシアへの亡命など、実生活も謎めいた岡田嘉子が、訳ありの女を緊張感たっぷりに演じるサスペンス・ドラマ。
2.「和製喧嘩友達」と同時上映
13. 非常線の女
S8('33)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間40分
■原作:ゼームス槇■脚本:池田忠雄■撮影:茂原英朗(雄)■美術:脇田世根一■出演:田中絹代、岡譲二、水久保澄子、三井秀夫(弘次)、逢初夢子
暗黒街に生きるボクサーくずれの男(岡)と、その情婦(田中)がたどる数奇な運命。ボクシングジム、ビリヤード、蓄音機などスタイリッシュなテイスト溢れる和製ギャング映画。水久保澄子の現代的な美貌は圧倒的である。
14. 出來ごころ
S8('33)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間40分
■原作:ジェームス槇■脚本:池田忠雄■撮影:杉本正二郎■美術:脇田世根一■出演:坂本武、突貫小僧、大日方伝、伏見信子、飯田蝶子
長屋に暮らす庶民の悲喜交々を描いた人情喜劇の名作。教養も金もないが男気に溢れる職工・喜八の、儚い恋と父子の情に涙する。坂本主演の「喜八もの」第一作。飯田扮する世話焼き婆と、息子役の突貫小僧の配役は絶妙。
15. 母を恋はずや(不完全版)
S9('34)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間13分
■原作:小宮周太郎■構成:野田高梧■脚本:池田忠雄■脚本補助:荒田正男■撮影:青木勇■出演:吉川満子、大日方伝、三井秀男(弘次)、奈良眞養、笠智衆、逢初夢子
家長の急死により没落したブルジョア家庭を舞台に、母子の絆を丹念に綴った名篇。戦後も名脇役として活躍した三井弘次が、腹違いの兄と母を気づかう繊細な青年を演じる。原案の「小宮周太郎」は小津のペンネーム。(冒頭の1巻と、長男が母に許しを請う最終巻が欠落しています)
16. 浮草物語
S9('34)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サイレント/1時間26分
■原作:ジエームス槇■脚本:池田忠雄■撮影:茂原英朗(雄)■美術:浜田辰雄■出演:坂本武、飯田蝶子、三井秀男(弘次)、坪内美子、八雲理恵子(恵美子)
信州の田舎町にやってきた旅芸人一座。そこには座長が産ませた子供と、その母親がいた―。浮草のような旅役者達の哀歓を細やかな抒情で綴る名作。小津が本作をカラーで再映画化した『浮草』('59)も必見。
17. 東京の宿<サウンド版>
S10('35)/松竹蒲田/白黒/スタンダード/
サウンド版/1時間20分
■原作:ウィンザァト・モネ■脚本:池田忠雄、荒田正男■撮影:茂原英朗(雄)■作曲・指揮:伊藤冝二■美術:浜田辰雄■出演:坂本武、岡田嘉子、飯田蝶子、突貫小僧、末松孝行
子連れで職を探し歩く喜八(坂本)は、木賃宿で幼子を連れた女(岡田)と出会う。それまで軽妙な語り口だった「喜八もの」とは違い、庶民の貧困を切実に描いた人情噺。架空の原作者名は"without money(文無し)"のもじり。
18. 菊五郎の鏡獅子 [記録映画]
S11('36)/国際文化振興会=松竹大船/白黒/スタンダード/トーキー・日本語版/19分
■撮影:茂原英雄■出演:六代目尾上菊五郎、尾上琴次郎、尾上しげる
六代目尾上菊五郎の歌舞伎舞踊を記録した小津唯一のドキュメンタリー。'34年に設立された国際文化振興会が日本文化を海外に紹介するために製作した一本。名人の至芸を後世に伝える貴重な記録映画となっている。
19. 一人息子
S11('36)/松竹大船/白黒/スタンダード/1時間23分
■原作:ゼームス槇■脚本:池田忠雄、荒田正男■撮影:杉本正次郎■音楽:伊藤冝二■美術:浜田辰雄■出演:飯田蝶子、日守新一、坪内美子、吉川満子、坂本武、高松栄子
小津のトーキー第一作。進学を望む一人息子のために身を削って働いてきた母は、出世したはずの息子に会いに上京するが―。小津作品の常連・飯田蝶子が、複雑な想いを抱える母親役を静かに演じる、心に響く感涙作。
20. 淑女は何を忘れたか
S12('37)/松竹大船/白黒/スタンダード/1時間11分
■脚本:伏見晁、ゼームス槇■撮影:茂原英雄、厚田雄春■音楽:伊藤冝二■美術:浜田辰雄■出演:栗島すみ子、桑野通子、斎藤達雄、佐野周二、吉川満子、坂本武
娘盛りの姪(桑野)に振り回される大学教授(斎藤)を主人公に、倦怠期の夫婦の戸惑いをコミカルに描く都会派コメディ。抜群のスタイルで当時の流行ファッションを着こなす桑野通子は、女優・桑野みゆきの実母。
21. 戸田家の兄妹
S16('41)/松竹大船/白黒/スタンダード/1時間45分
■脚本:池田忠雄、小津安二郎■撮影:厚田雄治(春)■音楽:伊藤冝二■美術:浜田辰雄■出演:佐分利信、高峰三枝子、葛城文子、吉川満子、斎藤達雄、桑野通子
当主が突然死んだ資産家の一家。老母と三女は行き場を失い、兄姉の家をたらい回しにされる。戦後の小津作品に通じる家族の物語で、母と妹の危機に二男役の佐分利信が現れる場面の痛快さが印象的だ。
22. 父ありき
S17('42)/松竹大船/白黒/スタンダード/1時間27分
■脚本:池田忠雄、柳井隆雄、小津安二郎■撮影:厚田雄治(春)■音楽:彩木暁一■美術:浜田辰雄■出演:笠智衆、佐野周二、坂本武、水戸光子、津田晴彦、佐分利信
男手ひとつで一人息子を育ててきた父親の人生と、それに応えようとする息子を慈しむようにみつめる名作。有名な川釣りの場面の反復など、離れて暮らす父子の情感を見事に描く。当時まだ30代の笠智衆の父親が出色。(保存状態が悪く音声不良が予想されます)
23. 長屋紳士録
S22('47)/松竹大船/白黒/スタンダード/1時間11分
■脚本:小津安二郎、池田忠雄■撮影:厚田雄春■音楽:斎藤一郎■美術:浜田辰雄■出演:飯田蝶子、青木放屁、吉川満子、河村黎吉、坂本武、笠智衆
小津の戦後第一作は、余儀なく戦災孤児を預かった女(飯田)と、同じ長屋に住む人々が紡ぐ珠玉の人情噺。飯田の堂々たる代表作である。劇中の「のぞきからくりの唄」は、実際の酒宴で笠が披露した小津のお気に入り。
24. 風の中の牝鶏(めんどり)
S23('48)/松竹大船/白黒/スタンダード/1時間22分
■脚本:斎藤良輔、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:伊藤宜二■美術:浜田辰雄■出演:田中絹代、佐野周二、村田知英子、笠智衆、文谷千代子、坂本武
戦地から戻らない夫を待つ妻は、子供の治療費を払おうと苦心するが…。苛酷な世相を直視した異色作ながら、戦争の傷跡残るロケ撮影の素晴らしさが目をひく。田中が階段から落ちる場面の衝撃は小津映画随一。
25. 晩春
S24('49)/松竹大船/白黒/スタンダード/1時間48分
■原作:広津和郎『父と娘』■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:伊藤宜二■美術:浜田辰雄■出演:原節子、笠智衆、月丘夢路、杉村春子、宇佐美淳、三島雅夫
北鎌倉に住む大学教授の父は、同居する娘の結婚に腐心する。互いを想う父娘の情愛を静謐な気品を湛えて描き、小津後期のスタイルを確立した傑作。原節子は本作が初の小津作品で、以後そのミューズ的存在となる。
26. 宗方姉妹(むねかたきょうだい)
S25('50)/新東宝/白黒/スタンダード/1時間52分
■原作:大仏次郎■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:小原譲治■音楽:斎藤一郎■美術:下河原友雄■出演:田中絹代、高峰秀子、山村聰、上原謙、高杉早苗、笠智衆
夫の横暴に耐える妻と、現代的で奔放なその妹。三人は共に暮らしていたが、姉のかつての恋人が現れて…。小津が初めて松竹以外で製作した作品で、珍しくメロドラマ的色彩の濃い文芸映画となっている。
27. 麥秋(ばくしゅう)
S26('51)/松竹大船/白黒/スタンダード/2時間5分
■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:伊藤冝二■美術:浜田辰雄■出演:原節子、淡島千景、笠智衆、佐野周二、杉村春子、三宅邦子
婚期を逃がしつつある娘の結婚問題を軸に、鎌倉の大家族のそれぞれが迎える転機を描いた群像劇。なだらかな語り口で、人生の豊かさを綴る小津の代表作で、原と三宅の海岸での対話など胸をうつ場面が随所に。
28. お茶漬の味
S27('52)/松竹大船/白黒/スタンダード/1時間56分
■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:斎藤一郎■美術:浜田辰雄■出演:佐分利信、木暮実千代、津島恵子、淡島千景、鶴田浩二、笠智衆
お嬢様育ちで派手好きの妻(木暮)と田舎育ちで堅実な夫(佐分利)が些細な事から行き違い…。倦怠期を迎えた夫婦の機微を軽やかに、情感豊かに描いたヒット作。男も顔負けのマダム連中の快活ぶりが愉快だ。
29. 東京物語 【ニューデジタルリマスター版】
S28('53)/松竹大船/白黒/スタンダード/2時間16分
■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:斎藤高順■美術:浜田辰雄■出演:笠智衆、東山千栄子、原節子、香川京子、山村聰、杉村春子
東京に暮らす子供達を訪ねるために尾道から上京する老夫婦の姿を通して、家族の存在の儚さを描き、今もなお輝きを放ち続ける傑作。家族をみつめ続けた小津の集大成として、その普遍性は世界映画史にも比類がない。
30. 早春
S31('56)/松竹大船/白黒/スタンダード/2時間24分
■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:斎藤高順■美術:浜田辰雄■出演:池部良、岸恵子、淡島千景、高橋貞二、須賀不二夫、田中春男、浦辺粂子
冷えた関係の若い夫婦。夫は通勤仲間の娘と関係し、妻の知る所となるが…。サラリーマン生活の悲哀を交えながら、戦後世代の夫婦関係を繊細に描く。名脇役陣が多数出演する中、妻の母役の浦辺が強烈な存在感を放つ。
31. 東京暮色
S32('57)/松竹大船/白黒/スタンダード/2時間20分
■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:斉藤高順■美術:浜田辰雄■出演:有馬稲子、山田五十鈴、原節子、笠智衆、信欣三、中村伸郎
結婚に苦悩する姉、望まぬ子を身籠った妹、そして姉妹を捨てた母。戦後の作品の中では沈鬱な暗さを湛える異彩作ながら、感傷を排し、人間の業と孤独を凝視した名篇。女優達の翳りのある美しさに魅了される。
32. 彼岸花 【デジタルリマスター版】
S33('58)/松竹大船/カラー/スタンダード/1時間58分
■原作:里見弴■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:斉藤高順■美術:浜田辰雄■出演:佐分利信、田中絹代、有馬稲子、山本富士子、佐田啓二、久我美子
大映のトップ女優の一人・山本富士子を客演に迎えた小津初のカラー作品。娘が決めた結婚に大反対の頑固な父親に周囲の女性達が猛反発する。華やかな出演者と鮮やかな色彩が、朗らかな物語をひと際輝かせる。
33. お早よう 【デジタルリマスター版】
S34('59)/松竹大船/カラー/スタンダード/1時間34分
■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:黛敏郎■美術:浜田辰雄■出演:佐田啓二、久我美子、笠智衆、三宅邦子、設楽幸嗣、島津雅彦
郊外の集合住宅に住む人々の生活を、ユーモアたっぷりに綴る至福の逸品。子供と大人の世界を絶妙の按配で見せる小津の手腕に感嘆する。高橋とよ、沢村貞子、三好栄子、長岡輝子ら名脇役女優の競演にも注目を。
34. 浮草
S34('59)/大映東京/カラー/スタンダード/1時間59分
■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:宮川一夫■音楽:斉藤高順■美術:下河原友雄■出演:中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩、杉村春子、三井弘次
戦前の『浮草物語』のリメイク。大映のスター勢と、名手・宮川一夫の撮影、確かな技術陣を得て、豪雨の軒下での罵り合い、鶏頭の花の赤など、揺れ動く激情と目にしみる色彩が際立つ、前作に劣らぬ傑作となった。
*16mmで上映
35. 秋日和 【デジタルリマスター版】
S35('60)/松竹大船/カラー/スタンダード/2時間9分
■原作:里見弴■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:斉藤高順■美術:浜田辰雄■出演:原節子、司葉子、岡田茉莉子、佐田啓二、桑野みゆき、佐分利信
父を亡くし、残された母を思いやる娘を結婚させるため、母親の再婚が画策されるが…。コミカルな味わいと共に、母娘の愛情の深さをしみじみと描く晩年の代表作。小津作品初登場の岡田の弾けぶりが最高に痛快だ。
36. 小早川(こはやがわ)家の秋
S36('61)/宝塚映画/カラー/スタンダード/1時間43分
■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:中井朝一■音楽:黛敏郎■美術:下河原友雄■出演:中村鴈治郎、新珠三千代、小林桂樹、原節子、司葉子、浪花千栄子
関西の造り酒屋の老主人は家族の心配をしつつも、昔の女のもとへ通い始め…。東宝のオールスターが出演し、賑々しさと哀切な味とが一体になった円熟の一作。『浮草』に続く鴈治郎の妙演にも惚れぼれする。
37. 秋刀魚の味 【デジタルリマスター版】
S37('62)/松竹大船/カラー/スタンダード/1時間53分
■脚本:野田高梧、小津安二郎■撮影:厚田雄春■音楽:斎藤高順■美術:浜田辰雄■出演:笠智衆、岩下志麻、佐田啓二、岡田茉莉子、東野英治郎、岸田今日子
妻に先立たれながら子供を育てた父親が、娘の結婚に気を揉む。軽みの中に老いの孤独を滲ませた味わい深い遺作。豪華俳優陣を鮮やかにさばく演出は、熟練の極み。岩下、岡田の快活で現代的な女性像も楽しく新鮮だ。
A. 生きてはみたけれど 小津安二郎伝
S83('58)/松竹/カラー/ヴィスタ/2時間3分
■監督:井上和男■脚本構成:井上和男、高岡享樹■撮影監督:厚田雄春■音楽:斉藤高順■出演:岸恵子、司葉子、有馬稲子、岡田茉莉子、淡島千景、杉村春子、笠智衆、中村伸郎、木下恵介、今村昌平
小津の死後20年を経て製作されたドキュメンタリー。小津ゆかりの俳優陣(笠智衆、杉村春子、淡島千景、岡田茉莉子、岸恵子、有馬稲子他)、映画人(木下惠介、今村昌平、新藤兼人他)が名場面と共に小津の生涯を辿る。
B. 小津と語る Talking With OZU
H5('93)/松竹/カラー/ヴィスタ/40分
■監督:田中康義■撮影監督:川又昻■音楽:斎藤高順■出演:スタンリー・クワン、ホウ・シャオシェン、ヴィム・ベンダース、リンゼイ・アンダーソン、アキ・カウリスマキ、ポール・シュレイダー、クレール・ドゥニ
小津生誕90年(没後30年)に製作されたドキュメンタリー。W・ヴェンダース、A・カウリスマキ、ホウ・シャオシェンら世界の映画監督7人が小津作品の魅力を語る。名だたる監督達の、小津への真摯な想いが伝わるオマージュ集だ。